はじめに
介護するご家族がいつも抱える「ちゃんと見てもらえているだろうか」「夜間に何かあったら」という不安や、「現場の職員さんが疲れ切っていないか」という現場スタッフへの気遣いなど普段から気に掛けなければならないポイントがたくさんあります。本記事では、このような思いをテクノロジー(DX)の力でどう軽減できるかを、実際の導入事例を通じて解説します。ご家族がより安全で質の高いケアを受けられるヒントになれば幸いです。
介護DXとは
介護DXとは、センサーやAI、クラウド記録などデジタル技術を利用して、人のケアをよりきめ細かく・安全にする取り組みです。介護事業者がAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ICT(情報通信技術)などのデジタル技術を戦略的に活用し、
- 業務プロセスの可視化・自動化
- サービス品質の向上
- スタッフの働き方改革
を同時に実現する取り組みです。人手に依存していた記録作業や見守り業務、介護ロボットやAIの導入、報告連絡会議などをデジタル化することで、介護職員は本来のケア業務に集中できるようになります。
介護DXがここまで注目される4つの理由
32万人不足が迫る──人手不足と2025年問題
厚生労働省の推計では、2025年時点で約32万人の介護職員が不足すると予測されています。求人倍率は全業種平均の3倍超という状態が続き、現場1人あたりの負担増がサービス低下に直結する懸念が現実味を帯びています。
出典:明光グローバルマガジン「【2025】介護業界の人材不足対策は?現状のデータからわかる原因と解決策を解説」
DXで業務を自動化・見える化し、「少人数でも全員に目を配れる体制」を作ることが急務というわけです。
家族・利用者がテクノロジーに期待
三菱総合研究所が2025年に行った調査では、認知症介護を担う家族の多くが「AIやセンサーで徘徊や転倒を早期に察知してほしい」と回答。ヒューマンタッチを補完する道具としてDXを歓迎する声が想像以上に高いことが示されました。
出典:東洋経済オンライン「認知症の家族介護を支えるデジタルテクノロジー」
つまり、DXを導入する施設は、安心を選ぶ家族から「選ばれやすい」という傾向が出始めてきています。
安全性と業務効率を同時に底上げ
ベッド下センサーを活用した見守りシステムの導入で、転倒・転落事故が67%減少し、夜勤スタッフの離職もゼロにという事例が報告されています。
DXは「事故を防ぐ」だけでなく、巡視回数や記録時間を削減して職員の余力を生み出し、その時間を対話やリハビリに充てることができます。ケアの質向上と業務効率化を両立できる点が評価されています。
国が補助金で背中を押す仕組み
国や自治体による資金面での強力な支援があることも大きな理由のひとつです。
たとえば、介護施設が見守りセンサーや記録用のタブレットなどを導入する際には、「介護ロボット・ICT機器等導入支援事業」などの制度を活用することで、機器の購入費用の7〜8割が補助される仕組みがあります。
たとえば30万円の見守り機器を導入する場合、施設が実際に負担するのは6〜7万円程度。このように、導入のハードルを大きく下げてくれる制度が整っているのです。
さらに、DX導入後も「生産性向上推進体制加算」という制度により、テクノロジーを活用する施設には毎月の介護報酬が上乗せされます。利用者1人あたり月に約1,000円前後の加算がつくため、機器の維持費や運用コストをまかないやすく、長く活用しやすい環境が整っています。
出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について」
こうした背景があるからこそ、テクノロジーを積極的に取り入れている施設は増えており、それがいま介護DXが注目される大きな理由のひとつになっているのです。
最新の導入事例と効果
テクノロジーの力で、介護の現場がどのように変わるのか。ここでは、具体的な課題を抱えた高齢者やそのご家族にとって、どのような効果があったのかがわかる事例を4つご紹介します。
夜間の見守りが不安な高齢者の介護DX—ささづ苑 × 「パラマウントベッド 眠りSCAN」
対象となる方
- 夜中に何度も巡回で起こされてしまう方
- 睡眠の質が悪く、日中も元気が出ない方
導入された技術
ベッドの下に敷くシート型センサー「眠りSCAN」で、脈拍・呼吸・体動を常時モニタリング
効果のポイント
- 深夜巡回:2回 → 0回
- 記録作業:1日33分 → 17分
- 90代男性の睡眠時間:平均1.9時間 → 7.0時間に改善
家族にとっての安心感
- 「夜中に何度も起こされず、朝までぐっすり眠れるようになった」
- 「センサーで睡眠の変化を早く察知してもらえることで、病気の兆候にも気づいてもらいやすい」
→ 高齢者本人の生活の質(QOL)と健康維持に直結する成果が出ています。
参考:ささづ苑
一人暮らしで転倒リスクが高い方の介護DX—ゆうゆう壱番館 × LASHIC-care
対象となる方
- 自室で過ごす時間が長く、転倒リスクが心配な方
- 認知症傾向で、緊急ボタンが押せない可能性がある方
導入された技術
部屋のドアやベッド、トイレの動きをセンサーで検知し、行動パターンの異常をリアルタイムで通知。
効果のポイント
- 安否確認作業:1人あたり6時間 → 約10分に短縮
家族にとっての安心感
- 「万が一、部屋で転倒してもすぐに気づいてもらえる」
→ひとりにさせない見守りが実現。離れて暮らすご家族にとっても心強い仕組みです。
参考:インフィック株式会社
緊急対応の遅れが不安な方の介護DX—ケアホーム西五反田 × HitomeQ ケアサポート
対象となる方
・急な体調変化が起きやすい方(心疾患・てんかんなど)
・ナースコールを押すのが難しい/声が届きにくい方
導入された技術
居室内に設置されたカメラが呼び出しと同時に自動で映像を送信。職員はスマホで即時に状況確認が可能。
効果のポイント
- ナースコール対応のタイムラグを大幅削減
- 不要な訪室が減り、静かで落ち着いたケア環境を維持
家族にとっての安心感
- 「ボタンを押した瞬間に、すぐ状況を見てもらえる」
→ 命に関わる初動の速さがテクノロジーで実現されています。
参考:コニカミノルタ日本
参考:ケアホーム西五反田
職員が忙しすぎてケアが手薄になっていないか心配な家族の方—CareWiz 話すと記録 × 複数介護施設での実証実験
対象となる方
- 施設内での会話や関わりの時間が少ないと感じる方
- レクリエーションなどの活動が減っている施設
導入された技術
ケア中に話すだけで記録が作成される音声入力型の記録支援ツール。
効果のポイント
- スタッフ1人あたりの記録時間:1日40分削減
- 書類業務を減らし、利用者との関わり時間を確保
家族にとっての安心感
- 「記録に追われることなく、レクリエーションや会話の時間が増えた」
→ 温かみのあるケアを支える仕組みとして、現場の職員にも好評です。
参考:ExaWizards
介護施設で必ず確認したい、DX活用チェックポイント(抜粋版)

介護施設を見学・相談するときは、「ここは良い施設ですか?」ではなく、具体的な視点で質問することが大切です。下記3つは、その中でも特に重要な質問です。答え方に注目すれば、施設の姿勢と先進性が見えてきます。
観点 | 質問例 | ここをチェック! |
夜間の安心 | 「夜間の見守りはどのようにされていますか?センサーなどを活用していますか?」 | ① 巡視回数 ② センサー導入の有無 |
ケア時間の確保 | 「スタッフが記録業務で手一杯にならないよう、どんな工夫をされていますか?」 | ① ICT記録ツールの有無 ② 記録時間削減の取り組み |
今後の改善意欲 | 「安全や生活の質を高めるために、新しい技術を導入する予定はありますか?」 | ① 導入計画やビジョンが語られるか ② 加算・補助金の活用状況 |
<ポイント>
- 具体的な数値(回数・時間)で答えられる施設は、データで改善を図っている証拠。
- 回答があいまいな場合は、テクノロジー活用が進んでいない可能性があります。
<もっと詳しく知りたい方へ>
この記事では重要な質問を3つだけご紹介しました。チェックポイントの完全版は、Silver Growth Studioアンケート(3分程度)回答者の方に無料でお配りしています。
※アンケートについて:同意なしに運営側から直接ご連絡することはございません。個人情報の取得もございません。
まとめ:安心できる介護の未来を、ご家族とともに創る
介護DXは、人手不足や業務負担の増大という課題を解決しながら、ケアの時間を増やすための強力なテクノロジーです。見守りセンサーや記録のICT化、介護ロボットといったDXサービスが、夜間の安全性向上や転倒予防、職員の負担軽減に具体的な成果をもたらしてきました。
これから介護施設を選ぶ際は、テクノロジーをどう活用しているかという視点を加えてみてください。この記事でご紹介したチェックポイントをもとに、安心して任せられる施設を見極める一助となれば幸いです。そして、ご家族にとっても介護される方にとっても、人とデジタルの協働が当たり前になる未来を一緒に歩んでいきましょう。
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