老後の生活費を見積もるうえで「年収800万円だと厚生年金はいくらになるのか」を早く正確に把握したい人向けのガイドです。この記事では最新の公表値に基づいて、単身と夫婦モデルの受給額の“目安”を表で示し、手取り感(税金・社会保険料の考え方)、制度の基礎、就労継続時の注意点までを一気通貫で整理します。老齢基礎年金の満額(月69,308円=年831,696円)や標準報酬月額の上限など、2025年度の前提で説明します。
※参考:日本年金機構
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本記事の前提条件
本記事を読む前に前提の確認をお願い致します。
- 将来の実額は、物価・賃金の改定、加入記録、在職調整などで上下します。本文は概算の目安として活用してください。
- 年収800万円は賞与込みの月額換算で約66.7万円ですが、厚生年金の標準報酬月額には上限があり、2025年度は65万円が適用上限です。政府はこの上限を段階的に引き上げ、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円とする方針を公表しています。上限以下の人は保険料・給付とも従来どおりです。※参考:厚生労働省
- 老齢基礎年金の満額は2025年度で月69,308円(年831,696円)。40年未満は加入年数に比例して按分されます。※参考:日本年金機構
年収と標準報酬月額の置き方
年収は実賃金ですが、厚生年金は賃金を区切った「標準報酬月額」の等級で管理します。高年収帯では上限等級(2025年度は65万円)に「頭打ち」が発生し、平均標準報酬は概ね上限水準で推移したとみなされます。※参考:厚生労働省
年収800万円の厚生年金受給額早見表
以下は「標準報酬月額の上限65万円で固定」「2003年4月以降の係数5.481のみを当てはめる」簡易モデルの概算です(2003年3月以前の月数には別係数7.125が適用され、実額は上下します)。老齢基礎年金は2025年度額で按分しました。※参考:厚生労働省
加入年数 | 老齢厚生年金(年) | 老齢基礎年金(年) | 合計(年) | 合計(月) |
---|---|---|---|---|
20年 | ¥855,036 | ¥415,848 | ¥1,270,884 | ¥105,907 |
30年 | ¥1,282,554 | ¥623,772 | ¥1,906,326 | ¥158,860 |
40年 | ¥1,710,072 | ¥831,696 | ¥2,541,768 | ¥211,814 |
<出典と根拠の要点>
標準報酬の上限65万円、老齢基礎年金2025年度額、報酬比例の係数5.481を使用。
夫婦モデルの年額と月額(概算)
本人は上表と同じ。配偶者は基礎年金満額と仮定(配偶者の厚生年金は含めない。加給年金は条件により有無が分かれるため除外)。
本人加入年数 | 世帯合計(年) | 世帯合計(月) |
---|---|---|
20年 | ¥2,102,580 | ¥175,215 |
30年 | ¥2,738,022 | ¥228,168 |
40年 | ¥3,373,464 | ¥281,122 |
配偶者の基礎年金額は2025年度の満額を採用。※参考:日本年金機構
手取りの目安 税金と保険料の考え方
年金の「手取り」は、支給額から税金と社会保険料を引いた後の金額です。ここでは考え方の道筋を示します。数字は自治体や控除の状況で大きく変わるため、最終的には各自で当てはめてください。
税金の基本フロー(65歳以上のケース)
- 年金収入(公的年金)から「公的年金等控除」を差し引く
- さらに「基礎控除」や医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、ふるさと納税など各種控除を差し引く
- 残った課税所得に所得税率(累進)を適用
- 住民税は前年の所得を基に個人単位で課税
ポイントは、公的年金には専用の控除があるため、同じ総収入でも給与より課税ベースが小さくなりやすいことです。一方で、控除の適用状況や他の所得(配当、不動産、退職後のパート収入など)で税額は動きます。
国民健康保険・介護保険料
退職後は多くの人が市区町村の国民健康保険と介護保険料を納めます。保険料は所得割・均等割・平等割などの組み合わせで、自治体ごとに料率が異なります。世帯の状況で年数万円〜数十万円まで幅が出るため、自治体の試算ページでの確認が欠かせません。
手取り感のつかみ方(レンジで把握)
・単身で合計年額が約2,541,768のケースでは、税・住民税・国保・介護保険料を合わせた負担は、控除の使い方や自治体差で大きく動きますが、ざっくり年10万〜30万円台のレンジになることが多い印象です。
・夫婦モデルでは、配偶者が基礎年金のみの場合、配偶者側は非課税または軽課税に収まりやすく、世帯の税負担は本人側中心になりやすい傾向です。
あくまでレンジの感覚値です。実額は、控除の適用、他所得の有無、自治体の保険料で大きく変動します。
仕組みの基礎 標準報酬月額と報酬比例部分
年金額の中心は「報酬比例部分」です。直感的には、平均標準報酬が高く、加入月数が長いほど増えます。計算は次の二段構えです。
- 2003年4月以降の期間
平均標準報酬×係数5.481×加入月数 - 2003年3月以前の期間
別係数(実務上は7.125)で計算し、上記と合算
さらに、物価・賃金の動きに応じた再評価、経過的加算、従前額保障などの調整を経て最終額が決まります。したがって、同じ年収帯でも加入歴の内訳により差が出ます。年収800万円層は標準報酬の上限で頭打ちになりやすいため、平均標準報酬が上限等級近辺で安定すると考えるのが実務的です。
※参考:日本年金機構「老齢年金ガイド」
よくあるつまずき
- 年収=標準報酬月額ではありません。等級という階段に丸められます。
- 上限等級があるため、高年収でも計算上は伸びが鈍く見えることがあります。
- 賞与は標準賞与額として扱われ、こちらにも上限があります。合算の仕方は制度に従います。
受取時期と働き方の影響
同じ人でも、受給開始年齢や就労継続の有無で、実際の入金と手取りは変わります。ここでは判断の軸をコンパクトに整理します。
繰上げ・繰下げの基礎
- 繰上げ(65歳より前に開始)は終身で減額、繰下げ(65歳より後に開始)は終身で増額となります。
- 公的年金は終身給付です。繰下げのメリットは長生きリスクへの保険として機能しますが、医療費や住宅、家族の状況などとのバランスが重要です。
- 在職や私的年金、貯蓄の取り崩しとの組み合わせで、キャッシュフローの谷を作らない設計が肝心です。
在職老齢年金の基本
- 65歳以上で厚生年金に加入しながら年金を受け取る場合、賃金(月給+賞与の月割)と年金月額の合計が一定額を超えると、老齢厚生年金が一部停止されます。
- 基準額は制度改定の対象になりやすい項目です。就労を続ける予定の人は、基準値、計算方法、届出の要否を毎年確認してください。
- 在職は保険料の追加負担がある反面、将来の年金額が増える側面もあります。短期の手取りだけでなく、生涯の受給見通しで判断する視点が有効です。
モデルケースでつかむ手取りの感覚
以下は、本文の早見表をベースに、家計の肌感覚を持つための読み方のコツです。ここでの手取りは、あくまで考え方の道筋を示すもので、個別の控除や自治体差により大きく動きます。
ケースA 単身・加入40年
- 表の合計年額は約¥2,541,768、約¥211,814/月。
- 税・住民税・国保・介護保険料は控除と自治体料率次第。医療費控除や社会保険料控除の活用で課税ベースを抑えられることがあります。
- 固定費(住居・通信・保険)を先に最適化しておくと、手取りの揺れに強い家計設計にできます。
ケースB 単身・加入30年
- 表の合計年額は約¥1,906,326、約¥158,860/月。
- 家賃や住宅ローンの有無で可処分の景色が一変します。持家は固定資産税や修繕費、賃貸は更新料・家賃上昇など、どちらもコストの見直し余地を点検。
- 不足分は就労収入や私的年金・積立の取り崩しで補う設計に。繰下げは終身の底上げとして有力な選択肢になり得ます。
ケースC 夫婦・本人加入40年 配偶者は基礎年金のみ
- 世帯合計の年額は約¥3,373,464、約¥281,122/月。
- 課税は個人単位。世帯合計で家計を見つつ、本人側の課税・保険料が中心になる前提で資金繰りを確認。
- 扶養親族、医療費、社会保険料控除、住宅ローン控除の残存など、適用できる控除を整理すると、手取りの見通しがクリアになります。
よくある誤解と落とし穴
- 年収が上がれば年金も同じ比率で増えるという思い込み
上限等級があるため、高年収帯は伸びが鈍化します。年収800万円層は特に影響を受けやすいゾーンです。
- 夫婦は世帯合計で課税されるという誤解
課税や保険料の判定は原則「個人単位」です。世帯で受け取る年金の合計が同じでも、個人ごとの配分で負担は変わります。
- 手取り=受給額という勘違い
税・住民税・国民健康保険・介護保険料を差し引いて初めて手取りです。自治体差・控除差が大きいので、レンジで把握したうえで個別に確認が必要です。
- 制度は固定的という油断
標準報酬の上限、在職老齢年金の基準額、控除の取り扱いは見直しの対象です。年1回の点検を習慣化しましょう。
今すぐできる確認ステップ
- ねんきんネットに登録し、最新の見込み額を表示
加入月数、平均標準報酬、見込年金額を確認し、本文の表のどの型に近いかを突き合わせます。PDF保存やスクリーンショットで手元に残しておくと便利です。
- ねんきん定期便の読み合わせ
2003年3月以前と以後の加入月数の内訳、標準報酬の推移、空白や不一致の有無を点検。疑問点は早めに年金事務所へ相談しましょう。
- 家計の固定費リストアップ
住居・食費・保険・通信・交通・医療・介護・交際・娯楽を月額で書き出し、受給額のレンジと並べます。足りない分は、就労収入、私的年金、積立の取り崩し、繰下げの活用など、組み合わせで埋める設計へ。
まとめ
年収800万円層は、標準報酬月額の上限等級による頭打ちの影響を受けやすく、シンプルモデルでは単身・加入40年で約¥2,541,768/年(約¥211,814/月)、夫婦モデル(配偶者は基礎年金のみ)で約¥3,373,464/年(約¥281,122/月)が目安になります。ここから税金・住民税・国民健康保険・介護保険料を差し引いた「手取り」で生活を設計するのが実務的です。重要なのは、レンジで捉えたうえで、自分の控除、他の所得、自治体の保険料を当てはめること。繰上げ・繰下げや在職老齢年金の影響、標準報酬上限の見直しといった制度面の変化も定期的に点検してください。ねんきんネットと定期便の確認、家計の固定費の見直しという小さな一歩が、老後資金の不安を現実的な計画へと変えていきます。
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