自宅介護でパワーアシストスーツが普及していない理由とおすすめ3選

介護DX

在宅で家族を支える介護は、ベッドから車いすへの移乗や入浴補助など“力仕事”の連続です。国の調査では介護者の腰痛率は7割を超え、離職理由の筆頭にもなっています。こうした負担を軽減する切り札として期待されるのがパワーアシストスーツ。物流や工場では導入が進み、主力モデル「マッスルスーツ」累計出荷は3万台に達しました。しかし家庭での普及は限定的で、厚労省の最新調査でも装着型の移動支援機器普及率はわずか1.2%に過ぎません。(参考:厚生労働省

本記事では「なぜ在宅では広がらないのか」を4つの視点で解き明かし、レンタル費用や補助金制度、設置環境など買う前に押さえるべき判断材料をお伝えします。併せて、家庭でも扱いやすいパワーアシストスーツ3機種を具体的に紹介しますので参考にしてください。まずは、現状の普及率と市場動向を俯瞰し、続いて普及を阻む壁、そして解決策へとステップを踏んで解説していきましょう。

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パワーアシストスーツは家庭で使われているの?最新普及率と市場動向

厚生労働省が2024年に公表した「介護テクノロジー重点分野」の普及状況によると、装着型の移動支援機器(パワーアシストスーツ含む)の導入率は全介護現場で1.2%。移乗支援機器全体でも9.7%にとどまり、在宅領域に限ればさらに低いと推定されています。

一方、市場規模の観点では成長余地が大きく、矢野経済研究所の予測では国内のパワーアシストスーツの出荷台数は2023年に約8,000台、2028年には2万台規模へ拡大すると見込まれます。主力メーカーのイノフィスはシリーズ累計出荷3万台を突破しましたが、その大半は物流・製造・農業向けというのが実情です。

価格も家庭普及を阻む大きな要因で、非電動型のマッスルスーツEveryでも15万円前後、電動制御で高出力のHAL腰タイプは月額レンタル¥39,600+送料がかかります。

一方で2023年以降、自治体が高齢者・家族向けに最大3分の1を助成する補助制度を設ける動きも広がりつつあり、JPAS fleairyなどが対象製品として紹介されています。つまり、数字だけを並べると家庭への浸透はまだ黎明期。しかし、市場側では低価格化とレンタルビジネスの拡大、行政側では補助金・貸与モデルの整備が進み、2025年は「試着から小規模導入へ」移る分岐点と言えます。購入を検討する読者にとっては、まさに情報収集フェーズを逃さないことが鍵となります。

パワーアシストスーツの普及を阻む4つのハードル

① 初期費用&ランニングコスト

家庭向けパワーアシストスーツは、「初期費用(本体代¥100,000〜)+ランニングコスト」という価格帯が主流です。介護保険の福祉用具レンタル対象外のため、本体購入かメーカー直販レンタル(月額¥40,000〜)が基本。HAL腰タイプのような電動式は消耗材や電極交換費も発生し、長期使用では年間¥500,000を超えるケースもあります。補助金も自治体ごとに上限・対象が異なり、手続きを家族が行うハードルが高い点も普及を阻害しています。

② 装着性と操作性

物流向けに設計されたモデルは重量4〜8kgです。背面外骨格が大きく、ワンルームの居室や狭い浴室ではぶつけやすいのが実情です。着脱には平均1〜2分かかり、夜間のトイレ移乗など急ぎの介助では使いにくいと感じる家族も多いと言われます。バッテリー式の場合は、連続使用2〜3時間で充電が必要になり、複数回介助がある家庭では予備バッテリーを追加購入するコストも発生します。

③ 住宅環境・安全面

日本の木造住宅は段差が多く、和室の畳や狭い廊下では姿勢保持センサーが誤作動する事例も報告されています。防水・防塵性能が不十分で浴室では使用不可のモデルもあり、「使いたい場面に届かない」ことが導入断念の原因になります。また装着時に利用者とパワーアシストスーツが接触して皮膚トラブルが起こるリスクが指摘されており、家族介護では、安全確認のための二人介助が必要という本末転倒なケースも少なくありません。

④ 情報・試用機会の不足

大手量販店での常設展示はまだほぼゼロ。体験できるのはメーカーショールームや年数回の「アシストスーツEXPO」のような専門イベントが中心です。さらに介護専門職向けの記事・動画は多いものの、家族目線での比較情報が乏しく、「何を基準に選べばいいかわからない」状態が続いています。結果として、腰痛が限界になったときに慌てて高価な製品を買い使いこなせず、タンスの肥やしとなることもあります。

在宅ケアで導入しやすいパワーアシストスーツおすすめ3選

在宅介護でも「これなら置き場を取らず、毎日使えそう」と評判が高い3モデルを厳選しました。すべて家庭の廊下や浴室でのテスト事例が公開されており、レンタル・補助制度にも対応。価格だけでなく、重量・アシスト方式・メンテナンスのしやすさを基準に選定しています。

マッスルスーツEvery(INNOPHYS)

非電動の人工筋肉を背部に内蔵。ポンプで空気を送り込むと最大25.5 kg相当の補助力が立ち上がり、腰曲げ姿勢からの立ち上がりを支えます。本体3.8 kgと軽量ながら水濡れに強いカバーで浴室介助でも使われる事例が多数です。

価格は149,600円(税込)、自治体補助や月額5,478〜8,000円程度のレンタルプランも存在します。浴槽からの抱き起こしや床でのオムツ交換が多い家庭に最適です。

商品サイト:マッスルスーツ エブリィ

HAL腰タイプ介護支援用(CYBERDYNE)

筋電位センサーで“動こうとする微弱信号”を検知し、モーターが瞬時に腰を押し上げる電動型。家庭向けには「初回1か月39,600/月(送料込¥45,100)」のレンタルプランが用意され、Webサポートや故障保証込みで試しやすくなっています。重量は約4.3 kgと電動型としては軽量です。要介護度が高く移乗回数が多い家族ほど費用対効果が出やすいモデルと言えます。

商品サイト:HAL腰タイプ介護支援用

rakunie(ダイヤ工業/モリタホールディングス)

「アシストスーツのTシャツ版」と呼ばれる布製ハーネス「rakunie」。重さ約250 gで着脱30秒、背面ゴムの張力だけで腰を支え、装着したまま洗濯も可能。実勢価格は約¥20,000と最安クラスです。夜間トイレ介助など「いま必要!」の瞬間にもサッと付けられ、家族複数人で使い回ししやすいのが魅力です。

商品サイト:rakunie

導入コスト比較(目安)

区分rakunieマッスルスーツEveryHAL 腰タイプ
購入約¥20,000約¥150,000約¥900,000
レンタル¥5,000〜¥8,000/月¥39,600/月

月あたりの介助回数が1日10回超なら「HALの高速アシスト」が、回数が少ない家庭や軽介助中心なら「Every」または「rakunie」が費用対効果が良いと考えます。いずれのモデルも、自治体助成や介護保険外の補助金対象に含まれる例が増えているので、購入前に必ず地域包括支援センターで相談しましょう。

パワーアシストスーツ検討時の5つのチェックポイント

以下の5のチェックポイントを押さえれば、「買ったけど使わなかった」「家が狭くて動けない」といった失敗を防ぎ、投資を確実に家族の安心へ変えられます。検討時の参考にしてください。

介助シーンとアシスト方式

「移乗中心」「前屈作業中心」「長時間立位」など目的で最適な機種が変わります。例えば、立ち上がりが多ければモーター式HALの瞬発力、床上での軽作業中心ならEveryの持続トルク、短時間サポートならrakunieの手軽さが有利、といったイメージとなります。

重量・フィット感

在宅の環境は、通路が狭く段差も多いため注意が必要です。本体4kg超は浴室や階段で壁に当たりやすいです。サイズ可変範囲やバックル位置も確認し、試着時に「かがんで浴槽をまたぐ」「ベッド下に潜る」など最難関動作を必ず再現して、違和感がないかチェックしましょう。

着脱とメンテナンス性

夜間トイレ介助は、急ぐ+暗い+眠いの三重苦です。暗所で30秒以内に装着できる構造が理想です。非電動は洗濯可モデルが増え、汗や失禁対応も安心です。電動式はバッテリー交換可否と消耗品コスト(HAL の電極は約¥2,000/月)が別途かかります。

導入コストと助成制度

購入(資産計上)かレンタル(経費)かで税処理も異なります。自治体補助は上限も対象もバラバラなので、メーカーサイトで最新情報を確認し、市区町村の福祉課に照会を行いましょう。複数年利用なら「購入+保守」より「長期レンタル+全損保障」が安く済むケースもあります。

体験機会とサポート体制

メーカー巡回デモ、福祉機器展、ケアマネ経由のサンプル貸出などで自宅と同じ動線を再現して装着感を確認しましょう。導入後も、姿勢調整や故障相談をオンラインで受けられる窓口(アフターサポート)があるかを必ずチェックしましょう。

パワーアシストスーツ導入ステップと補助金・レンタル情報

家族+専門職で腰の負担を可視化

まず主治医・ケアマネと一緒に「1日何回・何kgを持ち上げているか」を棚卸しします。厚労省の介護ロボット導入マニュアルでも“現状計測→機器選定”が推奨されています。

参考:厚生労働省

体験会で複数機種を試す

アシストスーツEXPOなどの合同試着会では9社の最新モデルを同じ動作で比較が可能です。2025年は1月に名古屋で開催され、参加費無料・事前登録不要とハードルが低いのが特徴です。

参考:アシストスーツEXPO in NAGOYA2025

購入かレンタルかを決める

購入以外にも例えば、

  • マッスルスーツEvery:¥5,478/月〜のサブスク
  • HAL®腰タイプ:初月¥45,100(送料込)以降約¥60,000/月のレンタルプラン

といった方法で手に入れることもできます。テスト導入1〜3か月で家族の腰痛スコアがどう変わるかをチェックし、費用対効果を判断してから購入に切り替える、という使い方もあります。

補助金・助成を活用

介護テクノロジー導入支援事業》は47都道府県で公募が始まり、移乗支援機器なら台当たり上限100万円・補助率50〜75%の補助金制度です。

衣服型J-PAS fleairyのように補助金モデル価格を公開している製品もあり、4/5補助なら実負担10万円強まで下がります。

申請〜導入後フォロー

自治体によっては4〜5月に申請→7月交付決定→12月納品というスケジュール(例:神奈川県)。納品後1年間は効果測定レポート提出を求められる場合があるため、使用記録を家族で共有しておくと後の補助金申請・更新がスムーズです。

よくある質問(FAQ)

介護保険の福祉用具レンタルに入りますか?

多くのパワーアシストスーツは現時点で対象外ですが、J-PAS fleairy など一部衣服型は実証を経て対象化が検討中です。制度の動きはメーカーFAQでも随時更新されています。

バッテリーはどれくらい持つ?

HAL腰タイプはフル充電で約4時間連続稼働できます。移乗中心なら1日2〜3回の充電で運用可です。

月額いくらで試せる?

非電動のマッスルスーツEveryは¥5,478/月〜、電動HALは約¥60,000。短期介護ではレンタル、長期なら購入+補助金が王道です。

故障時の対応は?

レンタル契約には代替機発送やオンライン診断が含まれるケースが主流。契約前に“即日代替可能か”を必ず確認しましょう。

安全面は大丈夫?

最新モデルはパーツを布で覆い、利用者への接触リスクを低減します。中腰姿勢の筋活動を平均31%軽減した実証データもあります。

まとめ

在宅の介護は、家族の体力で成立している場面が多く、腰痛や離職という限界が近づくとケアそのものが継続困難になります。パワーアシストスーツは物流や農業で実績を積み、補助金やレンタル制度が整い始めた今こそ「家庭導入フェーズ」に入りつつあります。

重要なのは、以下のハイブリッド活用という3ステップです。

  1. 負担量の見える化
  2. 体験会での動線チェック
  3. 補助金+レンタルの検討

これらを踏めば、初期投資を抑えつつ本当に使える機器を選べます。テクノロジーは人を完全に置き換えるわけではなく、あくまで「人力を安全に延ばすブースター」。家族の健康を守りながら被介護者の尊厳も守る、その両立を実現する最短距離がパワーアシストスーツ活用です。まずは一度、体験会や自治体相談窓口に足を運び、未来の介護を自宅からアップデートしてみませんか。

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