65歳で退職金を受け取る前に知っておきたい税金・運用・新NISA活用術と失敗しないための注意点

シニアFinTech

65歳で受け取る退職金は、長年の労働の成果であり、第二の人生を安心して送るための大切な資金源です。しかし、ただ受け取って銀行に預けるだけでは、物価上昇や医療・介護費の増加に対応しきれない可能性もあります。人生100年時代といわれる今、定年退職後も20年、30年という長い生活が続きます。そのため、退職金の活用方法をきちんと考えることが重要です。
また、多くの人が見落としがちなのが「税金」と「運用リスク」の存在です。退職金には優遇税制がありますが、受け取り方や勤続年数によって税額が大きく変わることも。さらに、退職金を使って新NISAなどで運用しようと考える人も増えていますが、うまく活用できなければ損をする可能性もあります。
この記事では、65歳で退職金を受け取る方が知っておくべき「税金の基本」「新NISA活用法」「運用の落とし穴と失敗例」まで、わかりやすく解説します。退職金を受け取るだけで終わらせず、人生後半をより安心して過ごすための選択肢を一緒に考えていきましょう。

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【基本】65歳でもらう退職金の税金について

退職金には「退職所得控除」という優遇制度が適用されます。これは、退職金のうち一定額までは課税されないという仕組みで、計算式は以下の通りです。

退職所得控除額

  • 勤続年数20年以下:40万円 × 勤続年数(※最低80万円)
  • 勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

課税対象となるのは、退職金からこの控除額を引いた金額の1/2です。この金額に対して「所得税」「住民税」がかかります。

また、退職金の受け取り方によって課税パターンが異なります。自己都合退職であれば通常の退職所得扱いですが、会社都合や早期退職優遇制度などの場合、より優遇されることがあります。具体的なケースでは、退職所得ではなく「一時所得」や「給与所得」として扱われる場合もあるため注意が必要です。

退職金2,000万円の場合のシミュレーション

例:勤続35年で退職金2,000万円を一括受け取りした場合

  • 退職所得控除:(800万円+70万円×(35年-20年))=1,850万円
  • 課税対象額:(2,000万-1,850万)÷2=75万円
  • 所得税・住民税:所得税5%(3.75万円)+住民税10%(7.5万円)=合計約11.25万円

よって、実際の手取りは約1,988万円程度となり、控除によってかなりの部分が非課税となるのがわかります。

しかし、退職金と他の所得を同じ年に受け取ると税率が変わることもあるため、退職時期の選び方や受け取り年の収入状況も重要です。税務署や有料のファイナンシャルプランナーに事前相談することで、より最適な対応が可能になります。

退職金をNISAで運用するのはアリ?

退職金を受け取ったあと、その一部を投資に回すことを検討する人も少なくありません。中でも注目されているのが、新NISA制度です。2024年から始まった新制度では、年間360万円、最大1,800万円までの投資枠が非課税で運用できます。

シニア世代がNISAを使うメリット

NISAの最大の魅力は「運用益が非課税」という点。老後資金を少しでも増やしたい人にとって、税金がかからないのは非常に大きな利点です。たとえば高配当株をNISA口座で保有すれば、安定した配当収入を得つつ、税金を抑えることができます。

ただしリスクと注意点も

NISAは『元本保証がない』ため、運用次第では損をする可能性もあります。65歳以降は生活費の変動リスクや健康リスクもあるため、無理なリスクを取ると生活に影響する恐れがあります。

新NISAは、売却した投資額は翌年以降に投資枠として復活するため、以前より柔軟な運用が可能になりました。ただし、値下がり時に慌てて売却すると損失を確定させてしまうため、運用方針を事前にしっかり考えることが大切です。

また、新NISAは非課税で運用できる制度として魅力がありますが、相続時には通常の金融資産と同様に課税対象となるため、相続税対策としては限定的です。資産承継を意識する場合は、現預金とのバランスや他の制度との併用を検討することが大切です。

新NISA「つみたて投資枠」は効果的?

2024年からスタートした新NISAでは、「つみたて投資枠」として年間120万円までの積立投資が可能となり、非課税期間も無期限化されました。65歳からスタートしても、投資期間を柔軟に選べるため、生活スタイルや資金ニーズに応じて対応できます。

ただし、リスク資産への投資である点に変わりはないため、「資産を大きく増やす」目的というよりも、「資産を長期的に守りつつ増やす」目的で利用するのが現実的です。資金の一部をつみたて枠で運用しつつ、残りは現金や低リスク資産で保有するなど、バランスの取れた運用設計が大切です。

退職金運用で失敗した人たちの実例から学ぶ

退職金の運用は「老後資金を増やすチャンス」と捉えられる一方で、一度の判断ミスが大きな損失や生活不安に繋がるリスクもはらんでいます。ここでは実際にあった3つの失敗例をもとに、退職金運用の注意点と対策を解説します。人生の後半戦を安心して過ごすためには、「守るお金」と「増やすお金」のバランス感覚が求められます。失敗した人の実例から学び、自分や家族が後悔しないための判断力を養っておきましょう。

【ケース1】勧められるがままにリスク商品に投資して大損

~証券会社の言葉を信じすぎて、1,000万円が半年で半分に~

65歳で退職したAさんは、証券会社に「これからは投資でお金を増やす時代です」と言われ、深く理解しないまま外国株やREIT(不動産投資信託)に退職金の半分を投資。しかし、世界情勢の変動や為替の影響で評価額は急落。1,000万円が半年で500万円に減ってしまいました。

Aさんは「自分が損をする可能性はないと思っていた」「担当者が信頼できそうだったので言われるままに契約してしまった」と語ります。金融商品は元本保証がない限り、必ずリスクが伴うことを前提に、自分でも中身を理解してから判断することが必要です。

【ケース2】生活費を考えずに全額投資して後悔

~将来の安心のために始めた投資が、今の生活を苦しめる結果に~

Bさん(68歳)は、老後のインフレ対策として退職金全額の2,500万円を一括で運用に回しました。「20年後に3,000万円になっていれば安心」と思い、長期投資型のバランスファンドを選んだものの、毎月の生活費を取り崩す現金が手元にほとんど残っていなかったのです。

子どもの結婚や持病の通院など、想定外の出費が続き、ファンドを途中で売却することに。ところが売却タイミングが悪く、含み損を確定させる形で解約せざるを得ませんでした。

老後資金の運用では、「いくら投資に回し、いくらを現金で確保しておくか」という資産配分の設計(アセットアロケーション)が極めて重要です。一般的には、生活費の2〜3年分程度を無リスク資産で持っておくのが安心とされます。

【ケース3】退職金詐欺に遭った実例

~「元本保証・高利回り」の甘い言葉の裏に潜んでいた罠~

Cさん(66歳)は、定年退職後に「退職金を確実に増やせる」と勧誘された海外不動産ファンドに1,000万円を投資。しかしその実態は、実在しない不動産を使った詐欺でした。数年後に運営会社は倒産し、元本は戻らず、相談先もない状態に。

国民生活センターなどによれば、「退職金を運用しませんか」と近づいてくる業者とのトラブル相談は後を絶ちません。特に「元本保証」「絶対に儲かる」といった言葉には注意が必要です。金融庁・消費者庁・地銀など公的機関に登録されていない業者や商品には手を出さないのが鉄則です。

失敗を防ぐために必要な「家族との共有」と「第三者の意見」

退職金運用で失敗する人の多くは、「誰にも相談せずに一人で判断してしまった」ことが共通点です。特に高齢になると判断力が衰えやすく、「相手の話がよくわからないまま了承してしまった」というケースも少なくありません。

こうしたリスクを防ぐためには、以下のような対策が有効です。

  • 家族との情報共有:運用内容や金額をあらかじめ家族と話し合い、万が一のときにもサポートが受けられる体制をつくっておく。
  • 第三者への相談:金融機関の営業トークに流されずにすむよう、有料のファイナンシャルプランナーや市区町村の相談窓口を活用する。
  • 複数の選択肢と比較:一つの提案を鵜呑みにせず、他社商品や現金保有の選択肢も含めて冷静に比較検討する。

退職金を守り、活かすための考え方まとめ

退職金の運用を考えるうえで、65歳以降は「増やす」ことよりも「減らさない」ことがより重要になります。若い世代とは異なり、時間をかけて損失を取り戻すことが難しいため、リスクの高い投資に全額を預けるような運用は避けるべきです。

まず意識すべきは、手元の資産全体を俯瞰して見ることです。退職金だけに注目するのではなく、預貯金、年金、持ち家や保険など、家計全体の資産構成を整理しましょう。そのうえで、生活費に必要な現金や安全資産、将来の医療・介護費に備える資金、少額の運用資金というように目的ごとに分けて管理することが大切です。

また、資産設計や運用方針については家族との共有が欠かせません。何かあったときに家族が対応しやすくなるだけでなく、自分では気づかない視点からアドバイスを受けられることもあります。

さらに、投資や税金に不安がある場合は、中立的な立場の有料ファイナンシャルプランナーへの相談を検討してもよいでしょう。最近では、自治体や銀行、NPOなどが無料相談窓口を設けていることもあり、セカンドオピニオンとして活用する人も増えています。ただし、これらの無料サービスを受けた際には、別の投資商品を進められる可能性もあります。利用する際には、勧められた投資商品は絶対に契約しないなど、十分注意する必要があります。退職金は人生で一度きりの大きなお金です。焦って運用を始めるのではなく、「現金のまま持つ」ことも選択肢のひとつと考え、慎重に向き合う姿勢が、後悔のない人生後半を支える力になります。

おわりに

退職金は、これから始まる「第二の人生」を支える大切な土台です。その使い方次第で、老後の安心感や生活の質は大きく変わってきます。税金の仕組みを知って無駄な支出を避け、NISAなどを活用して賢く運用する。けれども、それ以上に大切なのは「自分らしく生きる」ために、お金をどう活かすかを考えることではないでしょうか。

この記事で紹介したように、退職金には税制上の優遇がある一方で、運用に失敗したり、詐欺に巻き込まれたりするリスクもあります。そうした落とし穴を避けるには、情報を正しく知ること、そして一人で判断しないことが重要です。

「増やす」ことにとらわれず、「安心して使えること」に価値を置く。この視点で退職金を捉え直すことが、これからの人生を豊かにする第一歩となります。ぜひ、信頼できる人と話し合いながら、ご自身にとって最適な選択を見つけてください。