年収1000万は一般的には高所得とされますが、この年収水準の人であっても、「将来、本当に年金だけで安心できるのか?」という疑問を抱く方は少なくありません。特に、公的年金の制度が複雑で不透明な印象を持たれやすい中で、自分がどれだけ受け取れるのかを把握しておくことは、老後の生活設計において非常に重要です。
本記事では、厚生年金の受給額の目安を、年収1000万円のケースを中心に詳しく解説します。加えて、他の年収帯との違いも一目で確認できる「年収別の受給額早見表」も紹介し、全体像をつかみやすく構成しました。
今のうちから自分の将来を具体的に見通すことで、貯蓄や投資、退職後のライフプランなどに戦略的な準備ができます。「高所得だから大丈夫」と安心するのではなく、制度の仕組みを正しく理解して備えていきましょう。
年収1000万の厚生年金はいくらもらえる?
年収1000万円の会社員が受給できる厚生年金の金額は、概算で月額20万円〜23万円前後と見込まれます(40年間フルタイムで就業・年収が一定と仮定した場合)。これは老齢基礎年金(国民年金)と、給与額に応じた厚生年金の合算額となります。
日本年金機構が公表する年金額のモデルでは、平均標準報酬月額に応じて年金額が算出されます。年収1000万円の場合、標準報酬月額の上限(令和6年時点で65万円)に近いため、加算部分が大きくなりますが、年金制度上、上限があるため、年収に比例して無制限に増えるわけではありません。
また、実際の受給額には加入年数やボーナスの有無、企業年金やiDeCoなどの上乗せ制度の活用状況も影響します。そのため、あくまで参考値として把握し、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」などの公的ツールで具体的な見込み額を確認することが大切です。
厚生年金の仕組みを簡単におさらい
日本の公的年金制度は、二段階構造で設計されています。1階部分は全国民共通の基礎年金(国民年金)、2階部分がサラリーマンや公務員などが加入する厚生年金です。
基礎年金は、20歳から60歳までの40年間保険料を納めた場合、満額で約80万円(2024年度:月額66,250円)が支給されます。一方、厚生年金は、報酬に応じて金額が決まる「報酬比例部分」があるため、高所得者ほど支給額が大きくなります。
厚生年金の受給額は、以下の2つの要素で大きく変わります。
- 平均標準報酬月額(と賞与):毎月の給料やボーナスに基づき、年金保険料が決まります。
- 加入期間(保険料納付期間):長く加入しているほど多く受給できます。一般的には40年加入が満額の目安です。
この2つをもとに計算されるため、同じ年収でも働き方や昇給タイミングにより、将来の受給額に差が出る点には注意が必要です。
年収1000万の場合の厚生年金受給額の目安
モデルケースで試算(40年勤務・年収1,000万)
モデルケースでは、厚生年金に40年間フルに加入し、平均年収1,000万円を維持した場合で試算します。日本年金機構の一般的な計算式「平均標準報酬月額 × 0.005481 × 加入月数」に基づき、標準報酬月額の上限に近い65万円として計算します。
合計で年約252.6万円(月額約21.0万円)の年金が見込まれます。
60歳時点での想定月額受給額と年額
現行の厚生年金支給開始年齢は65歳であり、60〜64歳での受給は通常ありませんが、繰り上げ受給を選んだ場合の減額分などは本節では考慮せず、標準的に65歳から受給すると仮定します。
モデル上では月約21万円、年約252万円が基本。再計算や生涯収入の変動がなければ、この金額を基準に生活設計を立てることができます。
配偶者あり・なしで異なる?
- 単身世帯(年収1,000万):上述の月約21万円(年約252万円)。配偶者なしの場合はこの額が全額です。
- 専業主婦(夫)ありの場合:配偶者は国民年金の老齢基礎年金(満額約81.6万円/年)を受給。世帯合計では約334万円/年(月約27.8万円)となります。
- 配偶者が共働きで厚生年金に加入している場合、夫婦合算でさらに増える可能性もあります。
年収別|厚生年金の受給額早見表(目安)
年収400万〜1,000万の範囲で一覧表
一例として年収レンジ別の受給目安(月額)は以下の通りです(加入期間40年、国民年金含む)。
年収 | 受給額(月額) |
400万 | 約14万円 |
500万 | 約15.8万円 |
600万 | 約17.6万円 |
700万 | 約19.5万円 |
800万 | 約21.3万円 |
1000万 | 約25万円 |
年収が高くなるにつれて支給額も増えますが、標準報酬月額が65万円に上限されているため、年収1,000万円以上では受給額上昇が頭打ちになる点は注意が必要です。ただし、以下のような要因で微差が出ることはあります。
- 年収の内訳が賞与中心か月給中心か
- 昇給のタイミング
- 勤務先が企業年金制度を持っているか
- iDeCoや企業型DCなどを追加しているか
注意点:加入年数や昇給ペースで変動する
- 加入年数が短い場合、受給額は比例して減ります。最低「10年」で受給資格が得られますが、フルに受給するには40年の加入が目安です。
- また昇給による年収変動があると平均標準報酬月額に影響し、受給額が前後します。
「ねんきんネット」での具体把握を
自分の見込み受給額を把握するには、毎年自宅に届く「ねんきん定期便」や、ネット上の「ねんきんネット」での情報閲覧が有効です。特に「ねんきん定期便(50歳以上)」には、現時点の加入実績に基づく65歳時点の予測受給額が記載されています。
老後の生活設計にどう活かす?
年金だけで暮らせる?生活費とのバランス
年収1,000万円の加入者が受給する年金は、月約20〜25万円(年約240〜300万円)と想定されます。しかし、老後の生活費は住居費や医療費で大きく変わりますが、都心部では世帯でも月30万円程度かかるケースもあります。
そのため、年金だけではまかなえない不足分は、自助努力や資産運用で補う必要があります。
企業年金・iDeCo・つみたてNISAとの併用
- 企業年金:企業が提供する確定給付型・確定拠出型年金で老後の収入源を上乗せ可能。
- iDeCo(個人型確定拠出年金):月々自分で掛金を拠出し、節税しながら老後の資産づくり。所得控除も受けられます。
- つみたてNISA:非課税で長期的な投資が可能。公的年金の不足分を補う手段として有効です。
高所得者ほど税制メリットが大きく、これらの制度を組み合わせることで、老後資金の安全性を高められます。
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高所得層だからこそ考えたい「繰下げ受給」戦略
公的年金の繰下げ受給では、1か月ごとに0.7%増額され、最大75歳開始の場合は最大42%増になります。
高所得者ほど高効果を見込めるため、退職後に収入が確保できていれば、繰下げを活用することで月額を大きく増額する戦略も検討すべきです。ただし受給開始までの生活費が必要な点も留意が必要です。
なお、繰下げ需給の申請方法は以下のとおりです。
- 「老齢基礎・厚生年金裁定請求書/支給繰下げ請求書(様式第235‑1号)」の入手。繰り下げ請求用の書類で、日本年金機構公式サイトからダウンロードまたは年金事務所等で入手可能
- 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカード 等)
- 振込口座がわかる書類(通帳やキャッシュカードなど)
- 印鑑(シャチハタ以外が望ましい)
- (必要に応じて)戸籍謄本・住民票・所得関係書類…など
よくある質問Q&A
年収が1000万あっても年金は満額もらえない?
厚生年金には「満額」が存在しません。受給額は「平均標準報酬月額 × 0.005481 × 加入月数」で算出され、標準報酬月額には上限の65万円が設けられているからです。
たとえ年収1,000万円以上でも、上限に達した段階で受給増加は頭打ちになります。また、加入月数が短いと当然受給額も減少します。つまり、年収が高くても「最大加入月数」と「標準報酬月額上限」に達しない限り、最大額には届きません。
Q2:転職して給与が上下した場合はどうなる?
転職後に厚生年金に継続加入すれば、基本的に制度への影響はありません。
ただし、給与が下がると標準報酬月額が低くなり、将来の年金額が減る可能性があります。また、離職期間があるとその期間は厚生年金に加入していないため、「加入月数」が減って受給額ダウンの要因となります。
転職時は、企業年金制度(例えば企業型DCなど)の有無も確認し、補完策を検討することが望ましいです。
Q3:共働きでそれぞれ高年収だと、世帯としてどれくらい?
共働きの会社員夫婦の場合、夫婦それぞれが老齢厚生年金+基礎年金を受け取れます。
例えば、夫が年収1,000万円・妻も会社員の場合、夫婦それぞれで年約252万円+年約252万円=世帯で年約504万円(月42万円)が見込めます。ただし妻の年収や加入状況により金額は変動します。
まとめ
年収1,000万円といえど、公的年金は無制限に増えず「標準報酬上限」や「加入月数」に基づいて支給される仕組みです。高所得を背景にしても、加入が不十分であれば最大限の受給には届きません。
転職や収入変動による影響は限定的ですが、給与減少や空白期間は将来の受給額を下げる一因となります。特に、加入の継続と勤務先の企業年金制度の確認が重要です。
共働き世帯では、夫婦それぞれが得る年金が対象となるため、単身世帯に比べて世帯受給額は大きく伸びます。しかし、夫婦合算でも生活費とのバランスに配慮が必要です。
高所得者だからこそ考えるべきは、「繰下げ受給」やiDeCo、企業年金、NISAといった資産形成との併用です。繰下げ受給では、月々の受給額が最大で42%増額できる選択肢もありますが(最大75歳までの場合)、受給開始までの生活資金や在職老齢年金の調整など留意点も多くあります。最終的には、ねんきんネットなどでご自身の個人データを正確に把握し、公的年金をベースにした多角的な老後戦略を立てることが、安心できる未来につながります。