夜間の負担を安眠に変える低頻度交換の重要性
在宅介護において、排泄介助は身体的にも精神的にも大きな負担となりがちなケアのひとつです。特に夜間のおむつ交換やトイレ介助は、介護者自身の睡眠不足、いわゆる細切れ睡眠の深刻な原因となります。在宅介護経験者の多くが、夜間の排泄介助で寝不足になったと述べています。
本来、夜間の睡眠は介護する人、介護を受ける人双方にとって、心身を休ませるための大切な休息の時間です。介護を受ける側にとっても、夜中に何度も起こされておむつ交換をされることは、大きな負担となり、人としての尊厳を傷つけてしまいかねないデリケートな行為です。
しかし、最新の高機能な長時間吸収パッドを用いることで、夜間の交換回数を最小限に抑える「低頻度交換」が可能となり、介護者と要介護者の安眠時間を確保できるようになりました。適切なパッドの活用は、夜中の中途覚醒を減らし、日中の生活リズムを整えることにもつながり、認知機能の維持に資する可能性があるとされています。低頻度交換は、決して介護の手を抜くことではなく、介護負担を軽減しながら、より質の高い、安らかなケアを提供する現代の介護技術のひとつです。
水分摂取の制限は厳禁です
おむつ交換の回数を減らしたいという思いから、介護を受けているご本人が「水分を控える」と言い出したり、介護者が水分摂取を制限しようと考えたりすることがありますが、これは厳禁です。高齢者はもともと水分不足になりやすい傾向があり、さらに水分を制限すると脱水症状を引き起こし、命の危険にさらされる可能性があります。水分はしっかりと補給しつつ、医師の指示がない限り“制限”ではなく、カフェインなど利尿作用の強い飲料を就寝前に避ける等の「質とタイミングの見直し」で対応することが大切です。
なぜ夜間排泄の失敗は増えるのか?基礎知識と準備
夜間の排泄ケアの負担を減らすには、まず高齢者の排尿に関する体の仕組みと、排泄パターンを理解することが不可欠です。
高齢者に夜間頻尿が増える背景
高齢になると、睡眠中に尿の生成を抑える抗利尿ホルモンの働きが低下することが夜間頻尿の原因の一つと考えられています。また、日中に脚に溜まっていた水分(むくみ)が、夜間横になることで上半身に戻ってきやすくなり、結果として夜間の排尿回数が増えることが挙げられます。
夜間頻尿の原因には、加齢によるホルモンバランスの乱れや、膀胱容量の減少、さらには高血圧、心不全、腎機能障害、糖尿病といった疾患が影響している場合もあります。前立腺肥大症や、膀胱の筋力・機能低下も、膀胱の容量を減らし頻尿につながります。
排泄日誌による客観的な状態把握
低頻度交換を成功させるための第一歩は、介護を受ける方の排尿状態を客観的に把握することです。排尿日誌を2〜3日間記録することで、24時間の排尿時間、排尿量、失禁時間、失禁量(大・中・少)が把握できます。
排尿日誌には、排尿時刻、尿の量、飲水量、水分をとった時間、尿モレの有無などを記録します。このデータは、夜間の尿量や排尿回数が分かり、適切な紙おむつ選びの目安になるほか、飲水の質とタイミングの見直し、時間排尿誘導の時間設定にも重要な情報となります。
排尿日誌を読み解く際は、回数や量の評価を自己判断で決めつけず、「気になる所見があれば医療機関に相談する」方針を基本にしましょう。残尿量の評価や数値の解釈は医療機関で行われる検査に基づき、医師の判断が必要です。
夜間排尿量の見積もり(おむつ重量法)
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使用後のおむつ重量 − 使用前のおむつ重量 = 排尿量(1g≒1ml)。
これを就寝前〜起床までで2〜3日測り、平均を夜間排尿量の目安とします。
見過ごされがちな排泄トラブルの原因
頻繁な尿意の訴えや頻尿は、単なる加齢や認知症のせいではなく、医学的な問題が潜んでいる場合があります。
例えば、高齢者の膀胱炎では、排尿痛や発熱といった一般的な症状が見られないことが多く、頻尿のみの訴えとなることがあります。オムツに膿性分泌物が見られるのに痛みの訴えがないこともよくあります。客観的な排尿状態を把握した上で、必要に応じて泌尿器科受診を検討することが重要です。
また、排泄に影響を及ぼす薬を服用している場合もあります。例えば、過活動膀胱治療薬、胃腸薬、抗精神病薬、抗うつ薬などには、排尿困難などの副作用があり、残尿が増えることで頻尿につながることがあります。夜間の頻尿症状が顕著な場合は、主治医に相談し、処方薬の変更も含めて検討することが大切です。
おむつ交換回数削減の秘訣:長時間吸収パッドの選び方
長時間、モレとムレを防ぎ、夜通し安心して過ごすためには、パッドの性能と選び方が非常に重要になります。
1. 吸収回数を正しく理解する

パッケージに記載されている「◯回分」という吸収回数の目安は、1回の排尿量を約150mlとして計算されています。夜間交換を減らす低頻度交換を実現するためには、排尿の量や回数に合わせた吸収量を、ゆとりを持って選ぶことが重要です。
夜間排尿量の合計が分かったら、推奨吸収量の目安は
推奨吸収量 = 夜間排尿量 × 1.3〜1.5(余裕係数)
とし、これに近い「◯回分/ml表示」のパッドを選びます。例えば夜間排尿量が600mlなら、理論上は4回分相当で足りますが、安眠確保のためには6〜8回分、あるいは夜間特化の高吸収モデルといった“上位吸収クラス”を選ぶと安心感が増します。製品の仕様や回数表記は改訂される場合があるため、購入前に最新の公式表示(回数・ml目安・夜用/長時間の別)を確認しましょう。
2. アウターとインナーの最適な組み合わせ
大人用紙おむつは、外側に使うアウターと、内側に使うインナー(パッド)を重ねて使うタイプがあります。このアウターとインナーを適切に組み合わせる「システム」としての考え方が、介護負担と経済的な負担を軽減する鍵となります。汚れた時にパッドだけを交換できれば、テープ止めタイプを汚さず1日1枚で済むことがあり、交換の手間と経済的負担が軽減されます。
ご本人のお身体の状態からの選択
- 寝て過ごすことが多い方:テープタイプのおむつ(アウター)とテープ用尿とりパッド(インナー)を併用。テープ用パッドは幅広で厚手の製品が多いのが特徴。
- 介助があれば歩ける方や立てる方:パンツタイプのおむつ(アウター)とパンツ用尿とりパッド(インナー)を併用。ズレ防止テープや体に沿う形状でごわつきを抑える製品を選ぶ。
3. モレを防ぐための機能チェック
長時間使用において、モレを防ぐ機能は非常に重要です。モレを経験した部位は、脚まわりが最も多く、次いで背中側、お腹側の順という傾向があります。
- 脚まわり対策:お腹に合わせて大きめサイズを選ぶと脚まわりがブカブカになり、モレにつながります。脚まわりのギャザーがしっかりフィットするサイズ選びと装着がポイントです。二重ギャザーやクロッチフィット形状などの“脚周り特化”機能が役立ちます。
- 背モレ対策:仰向けで過ごす時間が長い方には、背中側の吸収域が広い設計や背モレ防止ポケットのような“背側ブロック”機能が有効です。
- パッドの形状:長方形・ひょうたん型・ワイド形などがあります。後方ワイドでおしりを包み込む大型サイズや、股間部に沿うカーブ形状はズレにくさと背側のモレ軽減に寄与します。
体位と性別の傾向に合わせる:仰臥位が長い→背側ワイドや背モレ対策重視、側臥位が多い→脚まわりフィット重視、男性で前側にボリュームが出やすい→前寄せ配置と前方吸収域の確認、といった調整が有効です。
4. 肌への優しさとニオイ対策
長時間おむつを着用するためには、ムレなどによる肌トラブルが起きにくい、肌に優しい製品を選ぶ必要があります。
- 通気性:おむつ内部の温度・湿度上昇はおむつかぶれの一因です。全面通気性シートなど、湿気を外に逃がす設計を選びましょう。
- 消臭機能:アンモニア臭などを中和・抑制する消臭機能付き吸収材や、弱酸性に整える表面材など、複合的にニオイと肌をケアする設計が採用された製品があります。製品特性はメーカーの最新情報で確認してください。
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長時間吸収パッドを使いこなすための重要ポイント
高性能なパッドを選んでも、正しい装着方法と適切なスキンケアが伴わなければ、その性能は半減し、モレや肌トラブルを引き起こす可能性があります。
1. 低頻度交換を実現する正しい装着のコツ

パッドの重ね付けは避ける
モレが心配だからといって、尿とりパッドを2枚以上重ねて使用することは避けてください。吸収量は加算されにくく、通気性低下や段差によるスキマ発生で逆にモレを助長する場合があります。重ねる代わりに、ワンサイズ上の夜間特化パッドや、背モレ対策・脚まわり強化など“目的別形状”への切り替えで対応しましょう。
装着手順の基本
おむつ交換の際は、感染防止のため手袋をつけ、排泄物の量、ニオイ、性状を観察します。パッドを装着する前に、テープ止めタイプの背中部分と前側のお腹部分の両端を縦に2〜3回やさしく伸ばしてギャザーを立ち上げると、体にフィットしやすくなります。パッドも同様に両端を持ち、縦に2〜3回やさしく伸ばしギャザーを立てます。
- パッドのセット:テープ止めタイプの場合、パッド(インナー)は、アウターの背中や脚まわりの立体ギャザーの“内側”にしっかり入れます。ズレ止めシールは肌に直接触れないようにし、紙おむつ側に密着させます。パッドの中心線と体の中心を正確に合わせましょう。
- テープの固定:テープ止めタイプでは、下側テープを斜め上に、上側テープを斜め下に貼るクロス止めで全体のフィット感を高め、隙間を防ぎます。下側は脚まわり、上側はお腹まわりのサイズ調整の役割です。
就寝前30秒ルーチン(労力を減らす即効ワザ)
- 最終トイレ(可能な方)→当て直し→背側ギャザーと鼠径部フィットを指でなぞって確認
- ベッドサイドに防水シーツ・替えパッド・手袋・密閉袋を“ひとまとめ配置”
- 夜間に起こす必要がある場合も“確認のみの短時間介入”を基本にし、覚醒を最小化
2. 長時間使用時の肌トラブルを防ぐスキンケア
長時間パッドを使用する場合、皮膚が排泄物に触れることで生じるIAD(失禁関連皮膚炎)や、おむつかぶれなどの皮膚トラブルに注意が必要です。皮膚が尿によって浸軟し、高温多湿な環境下にあると、細菌や真菌(カビ)が増殖しやすくなります。
清潔と乾燥の保持
- 優しく洗浄・清拭:排泄物が皮膚に付着したら、できるだけ早く交換し、皮膚を清潔に保つことが最も重要です。洗浄の際は、おしりふきでゴシゴシこすらず、ぬるま湯で優しく洗い流すのが理想的です。女性の場合は、前から後ろに向かって一方向に拭き、雑菌が尿道に入るのを防ぎます。
- 乾燥:洗浄後は、濡れたところをしっかり乾かします。湿ったままにしておくと、褥瘡や皮膚炎の原因となります。おむつ交換の際には、お尻を空気に触れさせて乾燥させる時間を確保すると効果的です。
皮膚のバリア機能の保護
高齢者の皮膚は加齢により皮脂や汗の分泌が減少し、バリア機能が低下して刺激に弱くなっています。
- 保湿と保護:清潔にした後は、ワセリンや低刺激性の保湿クリームを“皮膚面に薄く均一に”塗布し、水分の蒸散と刺激物の付着を防ぎます。撥水性のある保護クリームやスプレーもIADの予防に有用です。ただし、粘着部や吸収面に付着しないように注意し、製品の密着や吸収を妨げない範囲で使用します。水様便が続く、悪化傾向がある、びらん・潰瘍が見られる場合は、自己判断で市販薬を継続せず、医療機関を受診してください。
例外ルール(安全最優先)
便失禁・皮膚汚染・不快感・吸収体の飽和サインがある場合は、交換回数の削減より即時交換を優先します。便が予測される夜は、尿対策とは運用ルールを分けて考えましょう。
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まとめ:安眠とゆとりを手に入れるために
夜間のおむつ交換の負担を最小化し、介護者と要介護者の安眠を確保するためには、適切な長時間吸収パッドの選択と、排泄ケア全体の個別的な見直しが不可欠です。低頻度交換は、夜間はぐっすり眠り、日中は活動して覚醒するといったメリハリのある生活リズムの確保につながり、ご利用者様の生活の質(QOL)に大きく貢献します。
介護者の負担軽減のために
在宅介護で排泄介助がつらいと感じた時、決してひとりで抱え込まないことが大切です。訪問介護、デイサービス、ショートステイなど、排泄介助を含む介護保険サービスを積極的に利用することで、介護負担は軽減できます。
また、大人用紙おむつを含む介護用品の購入費用は、一定の条件を満たすことで医療費控除の対象になる場合があります。医師の証明書やおむつ使用証明書、購入の事実を証明する領収書などが必要となる場合があるため、お住まいの自治体や税務署で事前に要件を確認し、活用を検討しましょう。