会議や接客の最中、笑ったり咳やくしゃみをした瞬間に「下着が少ししみた」。
その小さな不安は、実はとても一般的です。日本の女性を対象とした調査では、尿もれ(医学用語では尿失禁)の有病率はおよそ25%前後、つまり4人に1人程度と報告されています。最も多いタイプは、咳・くしゃみなどお腹に力(腹圧)がかかったときに起こる腹圧性尿失禁です。珍しいことではなく、適切な対処で良くなる可能性が高い症状だとまず知ってください。
※日本泌尿器科学会「尿が漏れる・尿失禁がある」
本記事は、無意識のうちに尿が漏れるのはストレスが原因なのか、という疑問に正面から答えるために、専門用語をできるだけ平易にし、今日からできる備えと、数週間で“もれにくさ”を取り戻す方法を整理しました。病気なのか、重症なのかという不安への目安も、受診の流れとあわせて丁寧に解説します。
尿もれは珍しくない
「私だけ?」という不安は、数字で確かめると和らぎます。国内研究では女性の尿失禁有病率は25.5%、タイプ別では腹圧性が最多でした。年齢とともに割合は増えやすい一方で、受診や具体的対処につながっていない人も少なくありません。恥ずかしさや「年齢のせい」という思い込みが、相談や行動を遅らせてしまうためです。まずは“一般的で対処できる”という事実を押さえましょう。
※Onishi A. et al., 2023:日本女性における尿失禁の有病率25.5%。筑波大学人間総合科学研究科 大西 安季 氏らの報告。研究成果は2023年10月30日「Womens Health」に掲載。
「ストレス(腹圧)」の誤解を3分で解消
ここでいう“ストレス”は心理的なストレスではありません。医学的には、お腹に力がかかること(腹圧)を指します。重い荷物を持つ、階段を上る、咳やくしゃみ、笑う。こうした動作で一時的に尿道を支える力が腹圧に負けると、少量の尿が漏れます。これが腹圧性尿失禁です。いっぽう、急に我慢できない強い尿意が走って漏れるのは切迫性、両方の特徴を併せ持つのが混合性です。
尿もれの主なタイプ
・腹圧性:咳・くしゃみ・笑い・ジャンプなど“動作の瞬間”に少量しみる
・切迫性:急な尿意とともにトイレまで間に合わない
・混合性:上の2つが混在
自分がどの場面で起きやすいかを把握することが、次の対策選びの近道になります。
病気?重症?受診の目安とセルフチェック
症状があるのは身体からのサイン。ただし多くは対処可能で、生活を整えたり骨盤底筋を鍛えたりすることで改善が見込めます。まずは、頻度(週に何回)・量(下着が湿る程度かパッドが必要か)・場面(腹圧時か急な尿意か)・夜間の有無・日常生活への影響を2〜4週間メモしましょう。
受診すべき“赤信号”
血尿、発熱や強い痛み、急激な悪化、下肢のしびれなど神経症状、産後の持続的な強い不調。これらがあれば早めに受診してください。相談先は泌尿器科(女性泌尿器)や骨盤底医療の外来、症状によっては婦人科です。診療ガイドラインは、問診・検査に基づき、まずは生活指導や骨盤底筋トレーニング(PFMT)などの保存的治療を第一選択に、必要時に薬物療法などを段階的に組み合わせる方針を示しています。
今日できる応急処置で仕事中の安心を確保する
不安を抱えたまま働くのはつらいもの。まずは「備え」で心の余裕を作りましょう。外出・勤務中の応急処置の第一選択は、尿もれ専用の吸水パッドです。理由はシンプルで、尿は月経血よりさらさらで流入が速く、吸収スピード・逆戻り抑制・消臭が設計された専用品のほうが実用的だから。外出先や勤務中の交換のしやすさと携行性にも優れ、におい・ムレ管理もしやすいのが利点です。英国NHSも、診断待ちや治療効果が出るまでの生活を支える製品として吸収パッドなどを案内しています。さらにNICEガイドラインは、吸収製品は“治療が始まるまでの対処/治療の補助/治療が奏効しない場合の長期管理”に用いると位置づけています。
※NHS “Incontinence products”:吸収パッド等は診断待ち・治療中の生活支援として位置づけ
※NICE NG123:吸収製品は治療開始までの対処/治療の補助/長期管理に用いる
生理用ナプキン・サニタリーショーツは代用できる?
おすすめできません。尿と経血では性状も出方も違うため、ナプキンでは流入スピードの速い尿を受け止め切れず、逆戻り・ムレ・におい・皮膚トラブルの原因になります。医療機関の患者教育でも「尿もれには尿もれ用パッドを選ぶ」と明記されています。最初の1パックは吸収量(回数の目安)/長さ/厚みの3つで選ぶと迷いにくく、白いボトムスの日は薄型や肌色系で段差が目立ちにくいものがおすすめです。
※国立がん研究センター 看護部
吸水ショーツ(洗って使える“尿もれ対応”ショーツ)の適応
吸水ショーツは軽い・予測しやすい少量もれや、自宅・ジムなど着替えが容易な環境で強みを発揮します。サステナブルでコストも抑えられますが、不意の速い流入や量が読めない日は単体運用だと受け止め切れない可能性があります。使うなら「月経用」ではなく“尿もれ対応”の表記のものを選び、外出時は替えの1枚を携行しましょう。国際的な患者団体や臨床資料でも、洗える尿もれ用アンダーウェアは軽〜中等度のもれに適する場合があると整理されています。
※NAFC(米国失禁協会)ほか:洗える尿もれ用アンダーウェアは軽〜中等度のもれに適する場合あり
今日から使える即効テク
咳やくしゃみ、立ち上がりなど腹圧がかかる直前に骨盤底筋を先にキュッと締めるだけのコツです。古典的なランダム化研究では、1週間の練習で咳時の漏れが有意に減少しました。朝の身支度や通勤の動作に「予告動作を感じたら一瞬先に締める」を組み込み、タイミングを体に覚えさせていきます。
※Miller JM et al., 1998:The Knack(咳直前の骨盤底筋先行収縮)で咳時の漏れが減少NAFC(米国失禁協会)ほか:洗える尿もれ用アンダーウェアは軽〜中等度のもれに適する場合あり
1〜8週間で根本対策を。骨盤底筋トレーニング(PFMT)
PFMTは女性の腹圧性・切迫性・混合性のいずれでも第一選択として推奨される非侵襲的治療です(体系的レビュー)。最初の壁は「どこをどう締めるのか」。腹筋・臀筋・太ももではなく、尿道と膣周囲を内側へ引き上げる感覚で、呼吸を止めずに行います。
※Cochrane Review:PFMTは女性の尿失禁に推奨される第一選択の非侵襲的治療NAFC(米国失禁協会)ほか:洗える尿もれ用アンダーウェアは軽〜中等度のもれに適する場合あり
基本フォームと週間メニュー
・保持型:ゆっくり5秒締めて5秒休む×10回(朝・晩)
・瞬発型:1秒ギュッと締めて1秒休む×10回(朝・晩)
無理のない回数から始め、歯磨き後や通勤時間など生活の固定ポイントに結びつけると継続しやすくなります。数週間で「踏ん張りやすい」「ナックが決まりやすい」といった体感が出てくる人が多いはず。フォームが不安なら、理学療法士や看護師の指導外来で確認すると上達が速くなります。
タイプ別の併用
切迫性の要素が強いなら膀胱訓練(トイレ間隔を徐々に延ばす)や、カフェイン・冷えのコントロール、便秘対策などを併用。混合性なら腹圧対策と切迫対策の両方を段階的に織り込みます。
生活と仕事に合わせた行動
働く日常では、理想どおりにトイレに行けない時間が続きます。会議前に一度トイレ、移動の合間に短い休憩、水分は“ちびちび”こまめに、カフェインは時間帯を選ぶ。
こうした調整だけでも、もれの頻度や不安は下がります。花粉症や風邪で咳が続く時期は、咳止めなどの対処も腹圧の悪化予防に有効。体重が増えると骨盤底への負担も増えやすいため、無理のない範囲で体重管理や体幹の軽い運動を続けることも役立ちます。尿もれは“意思の問題”ではなく身体メカニズムの問題。自分を責めないことが、行動を前へ運びます。
病院で受診すると何をする?
最初は問診と生活状況の確認、尿検査など基本的な評価から始まり、必要があれば機能検査へ。治療といっても、いきなり手術ではありません。生活指導・PFMTの具体指導・必要に応じた薬物療法を段階的に組み合わせるのが一般的です。ガイドラインも、困りごとに即した個別化を重視しています。
よくある質問
- Q応急処置は吸水パッド?サニタリーショーツ?吸水ショーツ?
- A
外出・仕事中の第一選択は吸水パッド。吸収スピード・逆戻り・におい対策・交換のしやすさで優れ、ガイドラインの“治療までの対処/補助”にも合致します。吸水ショーツは軽い・予測しやすい少量もれや在宅で有力。使うなら尿もれ対応表記を選び、外出時は替えを携行。サニタリーショーツ(生理用)単体は目的が異なるため不向きです。
- Qナックは本当に効きますか?
- A
はい。ランダム化研究で咳時の漏れの減少が示されています。コツは“予告動作の直前”に先に締めること。PFMTで筋力とタイミングが整うほど安定します。
- QPFMTはどれくらいで効果が出ますか?
- A
個人差はありますが、数週間で「踏ん張りやすい」などの体感が出る人が多いです。体系的レビューでも女性の尿もれに対する第一選択として支持されています。
まとめ
不安は今日から減らせます。職場では専用の吸水パッドで“万一”をカバーし、咳やくしゃみの前に骨盤底筋を先に締めるナックを試してください。
自宅では尿もれ対応の吸水ショーツも使い分けてください。生理用品の代用は避け、予備を持ち歩くと安心できます。水分は少しずつ取り、カフェインは時間帯を選んでください。
朝晩3分のPFMTを数週間続けると、もれにくさが高まり、会議でも集中しやすくなります。便秘や咳のケアも負担を減らせます。
血尿や強い痛みがあるときは早めに病院で受診してください。できることから一歩ずつ整えて快適な生活に戻していきましょう。
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