介護生活の中で、排泄ケアは避けて通れない大切な仕事です。多くの方が、費用(経済性)を抑え、交換の手間(介護負担)を減らすために、外側の紙おむつと内側の尿とりパッドの併用を試みます。
しかし、「パッドを付けているのに漏れてしまった」「ズボンを引き上げた途端にパッドが丸まってしまう」といった経験はありませんか。
節約や負担軽減のために始めたパッド併用が、設置がズレるというたった一つの問題によって、シーツや衣類の洗濯が増え、かえって手間が増加し、精神的な不安にまでつながってしまう、という悪循環に陥っている介護者は少なくありません。
この問題の根本原因は、介護の仕方が悪いわけでも、パッドの性能が低いわけでもありません。多くの場合、尿とりパッドが体からわずかにズレることによって隙間が生まれ、そこから尿が伝い漏れてしまうという、非常にシンプルな機械的な問題にあります。
ですが、ご安心ください。この悩みを解決するために、メーカー各社は技術を凝らしています。その鍵となるのが、進化したズレ止めテープと、正確な装着を可能にする目印線といった設計工夫です。
この記事では、なぜパッドがズレてしまうのかという原因を明らかにし、最新のパッドに搭載されているズレ防止技術を活用することで、いかに介護負担を劇的に軽減できるのかを解説します。
漏れの根本原因:おむつとのズレを生む3つの落とし穴
漏れを防ぐための第一歩は、漏れの原因を正しく知ることです。パッドのズレや漏れには、特に見落とされがちな3つの落とし穴があります。
致命的な紙パンツと尿とりパッドのミスマッチ
大人用紙おむつは、外側のテープ式おむつや紙パンツと、内側の尿とりパッドを組み合わせて使う「排泄ケアシステム」として機能するように設計されています。この組み合わせを間違えると、システム全体がうまく機能せず、漏れの原因になります。
- 「パンツタイプ」には「パンツ専用パッド」を
テープ止めタイプ用として設計されたパッドは、幅が広く、寝た姿勢での使用を想定しています。これを、体にフィットするよう作られた紙パンツ(パンツタイプ)の中に入れると、パッドが中で折れ曲がったり丸まったりし、パンツ本来の漏れを防ぐための立体ギャザーを押しつぶしてしまうことがあります。結果として、体と紙パンツの間に大きな隙間が生まれて漏れてしまいます。
ズレや漏れを防ぐためには、紙パンツを使用している場合は、必ず「紙パンツ専用のパッド」を選ぶことが絶対条件です。紙パンツ専用パッドは、パンツの股ぐりの形状に合わせてスリムな二つ折り形状になっていることが多いです。
動きと装着のちょっとした見落とし

正しい製品を選んでも、装着方法が不適切だとズレや漏れは起こります。
- 立体ギャザーを立てる
尿とりパッドとアウターの両方に備わっている立体ギャザーは、横漏れを防ぐ防波堤の役割を果たします。しかし、これらは通常、パッケージ内で平らに折りたたまれています。装着する前に、指で軽く立たせておかなければ、その役割を果たすことができません。 - パッドの固定不足と体の動き
パッドがアウターにしっかりと固定されていないと、介護を受ける方がベッド上で寝返りを打ったり、椅子から立ち上がったりするわずかな動きで、パッドは簡単にズレてしまいます。 - 立体ギャザーの内側に収める
パッドは紙パンツの立体ギャザーの内側に必ず収めましょう。外側にかかると伝いモレの原因になります。 - 男性器の向きの重要性
特に男性の場合、尿道口にパッドの中心が密着するように当てることが大切です。一般的には、性器を下向きに収めた方が尿モレしにくいとされています。ただし、上向きや横向きのほうが安定するケースもあるため、その方に合った向きで着用することが大切です。男性の性器を包み込む円すい状のパッドも販売されています。一般的には下向きがもれにくい一方、上向き・横向きが安定するケースもあるとされています。
重ね使いが漏れを悪化させる

「尿量が多いから」「漏れが不安だから」といって、パッドを2枚以上重ねて使うことはありませんか。これは、安心感を求めての行動ですが、実は漏れを悪化させる原因の一つです。
尿とりパッドの裏面は、外に尿が染み出さないように防水シートが貼られています。そのため、パッドを重ねても、上側のパッドが吸収した尿は、この防水シートによってブロックされ、下側のパッドには到達しません。つまり、重ねても吸収量はアップしないのです。
さらに、パッドを重ねることによって厚みや段差ができ、体とアウターの間に不自然な隙間を生じさせ、結果的に漏れを招いてしまいます。また、通気性も悪くなり、ムレやカブレの原因となる可能性もあります。尿量が多い場合は、重ねるのではなく、一枚のパッドで吸収回数の多い長時間用や夜用を選ぶことが正しい対策です。
メーカーの公式解説でも、パッドの重ね使いは防水シートにより下層に尿が届かず、段差や厚みによる伝いモレやムレの原因になるとされています。
ズレを科学的に防ぐ!パッドに搭載された革新技術
介護者のパッドのズレの悩みに対し、メーカー各社は「テープ」や「目印線」といった設計工夫で応えています。
進化した「ズレ止めテープ」の力
尿とりパッドに付いているズレ止めテープは、パッドをアウターに固定し、体の動きによるズレを防ぐための重要な機能です。
- 前後2ヶ所固定と幅広設計
かつてはパッドの中央に1ヶ所だけテープが付いている製品もありましたが、現在の紙パンツ専用パッドの多くは、パッドの前後2ヶ所にテープを配置し、安定性を高めています。これにより、パッド全体がしっかりとアウターに固定され、ねじれやめくれを防ぎます。
また、花王「リリーフ」などの製品には幅広テープが採用されており、接着面積が広いため、より強力な固定力を実現しています。 - 何度でもつけはずしできるテープ
ズレ防止テープの最大の進化は、この再剥離性(何度でも付けはずしできる機能)です。
ユニ・チャームのライフリー製品や大王製紙のアテント製品に採用されているこのテープは、紙をはがす手間がなく、もし貼り付け位置を間違えても、マジックテープのように簡単にはがして正しい位置に貼り直すことができます。これにより、パッド交換時の介護者の心理的なプレッシャーやイライラが大きく軽減されます。
装着の精度を高める目印線
パッドがズレて漏れる原因の一つに装着位置のわずかなズレがあります。特に紙パンツは立体的なため、パッドをまっすぐ中心に貼るのが難しいと感じる介護者の方も多いでしょう。この問題を解決するのが、青色の目印線などの位置決めガイドです。
- リリーフの青色の目印線
花王リリーフは“パンツとパッドの両方”に青色の目印線がある組み合わせがあり、線を合わせるだけで真っすぐ装着できます。 - アテントの矢印センターライン
大王製紙「アテント」のワイドタイプのパッドには、バックシートに前後が分かりやすく体の中心に合わせやすい「矢印センターライン」が入っています。アテントの紙パンツ用パッドには青色のズレ止めテープも付いており、テープははがさずにそのまま使用できます。
あわせて、パッドは紙パンツの立体ギャザーの内側に収めることも重要です。外側にかかると伝いモレの原因になります。
交換が楽になる秘密:パッド併用で実現する3つのメリット
パッドのズレが解消され、交換の失敗が減ることで、パッド併用本来のメリットが最大限に発揮されます。
経済的なメリット
パッドは外側のおむつに比べて価格が安価です。尿とりパッドを併用することで、排尿があった際に汚れたパッドだけを交換すれば、外側のおむつは汚れていなければ繰り返し使用できるため、おむつ代全体の節約につながります。
介護者の負担軽減
パッドを交換するだけで済むため、交換作業が簡単で、介護者の負担が軽くなります。特に、パッドがズレずにしっかりと固定されていれば、ズボンを引き上げた際にパッドを直す手間がなく、交換にかかる時間短縮やストレス軽減につながります。
衛生的で肌トラブルの予防になる
吸収量の多いおむつを長時間つけ続けるよりも、汚れるたびにこまめにパッドを交換する方が衛生的です。
尿とりパッドには、高吸収性素材が使われており、尿を素早く吸収し、表面をさらさらに保つことができます。また、多くの製品が消臭ポリマー(アンモニア臭などに対応)を配合しており、におい対策にもなります。
さらに、パッドやアウターに全面通気性シートが採用されている製品を選ぶと、おむつ内部の湿気を外に逃がし、ムレやかぶれ等の皮膚トラブル要因を抑える一助になります。褥瘡(じょくそう)対策は体圧分散や体位変換、皮膚観察などのケアも併せて行いましょう。
ズレないパッドの正しい装着方法(紙パンツ併用編)

パッドの機能を最大限に引き出し、ズレを防ぐためには、正しい装着手順をマスターすることが大切です。ここでは、紙パンツに「ズレ止めテープ付きの紙パンツ専用パッド」を装着する手順を解説します。
パッドと紙おむつの準備
- パッドのギャザーを立てる
尿とりパッドを広げ、パッドの両側にある立体ギャザーを指でなぞるようにして、しっかり立たせておきます。ギャザーが横漏れを防ぐ防波堤になります。 - 紙おむつの種類を確認
使用している紙おむつがパンツタイプの場合は、必ず紙パンツ専用のパッドを用意します。 - パッドの前後を確認
ひょうたん型など前後の幅が違うパッドの場合、男性は前側、女性はお尻側に幅の広い方を当てると効果的です。ただし、幅が同じでズレ止めテープが2か所ついた紙パンツ用パッドには前後がないものもあります。
パッドを紙パンツに固定する
- 二つ折りのまま挿入
紙パンツを膝下あたりまで下げた状態で、パッドを二つ折りのまま、紙パンツの股下をくぐらせ、底につくまで入れます。パッドが紙パンツの中でねじれないように注意します。 - テープで固定
パッドを広げ、ズレ止めテープが付いている部分を紙パンツに軽く押しつけて固定します。ズレ止めテープははがさずにそのまま使用できます。リリーフの「青色の目印線」付きパッドであれば、パンツの目印線に合わせて貼ります。 - 位置調整
ズレ止めテープは何度でも付け直し調整ができるタイプが多いので、位置がずれていても簡単にはがして貼り直すことができます。
最終チェック
- 引き上げる
紙パンツをウエストまでしっかりと引き上げます。特に背中側が下がりやすいので、腰骨の上まで深く引き上げることが、ズレと漏れを防ぐポイントです。 - ギャザーと肌着を確認
足の付け根(股ぐり)に隙間ができていないか、パッドが中でよれたり折れたりしていないかを確認します。パンツの漏れ防止ギャザーが内側に押し込まれていないか、また、肌着の裾が紙パンツと体の間に挟まっていないかを確認してください。肌着が挟まれていると、そこを伝って尿が漏れる原因になります。
主要メーカー製品の工夫
パッド選びの成功は、製品の持つズレ防止機能を理解し、介護を受ける方の生活や体の状態に合わせて選ぶことにあります。
以下は“代表例”です。サイズ・体型・生活動作で適合が変わるため、実際の使用感に応じて微調整してください。
ズレ防止に特化したパッドの機能比較
メーカー/製品例 | ズレ止めテープの特徴 | 位置決め補助(目印) | 独自の特徴 |
---|---|---|---|
ユニ・チャーム ライフリー 「ズレずに安心 紙パンツ専用尿とりパッド」 | 何度でもつけはずしできる 前後2点のズレ止めテープ | 装着位置がわかりやすいデザインシート | 引き上げ時に体に密着する「ピタッとフィット設計」で体とのすきまを作らずモレにくい。 |
花王 リリーフ 「紙パンツ用パッド ズレずにピタッと超安心」 | 幅広で何度でもつけはがし可能な前後2点テープ | パッドと紙パンツに共通の青色の目印線があり、まっすぐつけやすい。 | 立体ギャザーで横モレをブロック。うす型吸収体でモコモコしない。 |
大王製紙 アテント 「紙パンツ用さらさらパッド通気性プラス」 | ワンタッチ式2ケ所のズレ止めテープ(何度でも付け直し可、青色テープ) | 矢印センターライン入り(ワイドタイプ) | 全面通気性シートでムレにくい。股間部にぴったりフィットする「脚まわりすっきり形状」でモコモコ感を軽減。拡散スリットで尿を効率よく吸収。 |
最適なパッドの選び方
- 装着の手間を減らしたい場合
パッドと紙パンツに「青色の目印線」などのセンターラインが共通で入っている製品(例:リリーフ)は、誰でも正しい位置に迷わずまっすぐつけることができるため、装着ミスによるストレスを大幅に軽減できます。 - 活動性が高く、パッドが動きやすい場合
尿とりパッドは、紙パンツに前後のズレ止めテープでしっかり固定されるため、動きが激しい方や、自分でパンツの上げ下げをする方(トイレに行ける方)にとって、パッドがずれたり丸まったりする心配が軽減されます。 - 吸収量が多く、長時間安心したい場合
吸収回数が「4回分」「6回分」「8回分」など、吸収量が多い夜用や長時間用のパッドを選びましょう。夜間は吸収量の多いパッドを使うことで、夜中におむつ交換のために起こす必要がなくなり、ご本人も介護者もぐっすり眠れます。例えば、ライフリーの「ズレずに安心 紙パンツ用尿とりパッド 夜用スーパー」は8回吸収など、吸収力が高い製品があります。
まとめ
パッドのズレは、介護者のコスト削減の努力や、交換の手間を減らしたいという願いを打ち消してしまう、厄介な問題です。しかし、その原因の多くは「パッドとアウターのミスマッチ」「重ね使いによる隙間」「装着時のズレ」といった、正しい知識と最新の製品選びで解決できる問題です。
介護負担軽減の鍵
パッドを併用する最大のメリットは、パッドのみの交換で済むことによる経済性と負担軽減、そしてこまめな交換による衛生的なメリットにあります。
- ズレ止めテープや目印線などのメーカーの工夫を活用することで、尿とりパッドの装着が簡単になり、交換時のイライラが解消します。
- 「何度でもつけはずしできるテープ」によって、装着の失敗を恐れる必要がなくなります。
- 正しい装着により漏れがなくなれば、介護者にとって大きな負担であったシーツや衣類の「洗濯地獄」からも解放されます。
今一度、お使いのパッドが「紙パンツ専用」か、そしてズレ止め機能が活用できているかを確認してみてください。正しい知識と適切なアイテム選びが、介護を受ける方にとっての快適さと、介護者の方の安心感につながり、日々の介護を劇的に改善するでしょう。
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